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Mike Shiraishi 

 

 

機械が美しかった時代の乗り物DC3 ダコタ

某米国出版社のミーティングがカンクンで開かれた。その出版社のローカル・エディションを出している人々を集めて、年に一回開かれているミーティングである。
故あってそれに参加することになった。
カリブの海は美しい。カンクンのリゾート地帯は、町から少し離れた長いビーチに綿々と繋がるホテル群で形成されている。その中でも一番豪華であるといわれているホテル・アメリカーナという、なんともアメリカ人が好きそうな設備とサービスのホテルで3日間過ごした。ミーティングは毎日、午前中に2時間程度、パネルでその出版社の次期ヴィジョンを見せられるだけ。あとは自由時間で遊びまくるというものだった。
僕はその3日間をすべてカンクン周辺のプレ・マヤの遺跡を歩き回ることに費やした。
殆どが放置されたままの遺跡である。風雨に晒されて、その痛み方は本当に酷い。辛くなるほどだ。訪れる観光客もなく、どの遺跡も大抵見学客は僕だけだった。
おかげで、ホテルで手配してもらったガイドを車に待たせて、充分に大西洋の彼方から吹く「幻のアトランティス文明の風」を堪能させてもらった。
3日目のアメリカ帰国の朝。カンクンの飛行場で、この出版社のグループと分かれた後、僕はメリカーナ・エアラインでキューバへ出かけた。
今回の目的はカンクンではない。キューバで「憧れの麗人」に出会うことである。

カリブの海を周回する路線はエアロ・カリブと呼ばれている。予定時間を3時間ほど遅れて飛び立った20人くらいしか乗れないプロペラ機で夕暮れのホセ・マルティ空港へ。まるで映画のワンシーンのような夕焼けの中、飛行機を降りて空港ターミナルまでテクテクと歩いた。カンクンの飛行場は旅行者と地元の人とはイミギュレーションが別だったが、ここの飛行場は雑然と混ざり合っており、えらい時間がかかった。それでも大空すべてがオレンジ色に染まり、絶妙な色彩の変化から藍色一色に変わるドラマを体験できて、何とも楽しい飛行場だった。
街まではクルマで小一時間。ハバナ・リブレというホテルである。ここの20階だった。
設備は極めて上等で、今回の旅行のプランニングを作ってくれた旅行社の実力のほどを見せられた感じだった。
翌日、街へ出てみた。第一印象は、広告の看板が極端に少ないこと。二番目に感じたのは、街に商品が少ないこと。以前から聞いていた評判のカテドラル広場の近くのフリーマーケットにも出かけてみたが、それほど面白くなかった。ただゲバラ・グッズは確かに多い。どこへ行ってもゲバラだらけ。それに比してカストロ・グッズが無い。そういえば共産圏定番の巨大な壁面肖像画も無い。んんん。なるほど。長期安定政権を維持しているカストロという男の底知れぬ偉大さを垣間見たような気がした。
街のレストランは、旅行者用と地元の人用が区別されていた。旅行者はドルしか使えない。
試しに一軒入ってみて簡単な食事をしてみたところ、つり銭のコインがUSセントじゃない。聞いてみたら「キューバ・ドル」というそうだ。出国の際にUSドルに交換できるのだという。面白いなあ。

翌日。チェック・アウト後、再度ホセ・マルティ空港へ向かう。
胸がどきどきする。約束の「憧れの麗人」が待っているのだ。搭乗手続きをして、ターミナルで待っていると。あったあった!
ずんぐりむっくりとしたファット・ガール。ダグラスDC3。ダコタ。
双発の美女。胴面に大きくAERO TAXIと書かれている。
今回の旅の目的は彼女に会うことだった。
実はついこの間、キューバでハイジャック事件があった。そのハイジャックされた飛行機がDC3だったのだ。僕はそのニュースをサンフランシスコのケーブル・テレビで見た。TV画面にその機体が写されたとき、僕はイスから落っこちそうなほど驚いた。昔からあこがれ続けてきた「麗人」ダコタが写っていたからだ。
ダコタDC3。ダグラス社が産んだ双発の名機である。大戦中、アメリカは軍機として大量のDC3を使用した。11000機生産されたという記録が残っている。戦後これらはすべて払い下げられて世界各地に散らばった。全日空も当初DC3を旅客機として使用していた。
DC3の凄さは「壊れない」ことだ。そして壊れても簡単に直せる。まさに往年のメイドインUSAそのものという飛行機である。
1番有名なダコタが出る映画は「カサブランカ」だろう。カサブランカの最後のシーン、闇の空港の中に佇む「あの飛行機」あれがダコタだ。
ブラジルあたりでDC3が現役で飛んでいる話は知っていた。しかしまあキューバにもあるんだ!!早速調べてみるとキューバ航空は何と4台も保有しているではないか!それもすべて現役として飛ばしている。ハイジャックはそのうちの一機だったのだ。
AERO TAXIと胴面に大書されたDC3。なんとあの飛行機らしい姿だろう。。
そのダコタが目の前にある。
僕は感動のあまり、手にしていた荷物を落としそうになった。

さて。その乗り心地は。。凄かった。まさに文字通りドスンドスンと飛び上がり、泰然と宙を舞うという感じだった。30数人乗りの機内は思っていたより狭く、殆ど満席状態だったので満員バスに乗ったような雰囲気だった。荷物は全て自分でホールドする。
機内のスタッフに聞いたところ、この機体は1930年代に製造されたものだそうだ。
妙齢70歳!!
機械が美しかった時代の、遺された最後のものだ。
乗れてよかったな。間に合ってよかったなと心底そう思った。

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